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■ 近頃のこと

2023/06/14

松、竹、梅に、雀の嶋台

3人仕丁の前に、松、竹、梅3種の嶋台を置きたいのだそうで、更にそのどれもに雀を組み合わせて欲しいという、珍しくも面白い依頼があったのです。

そんな制作は、私の独壇場のようなものだと自惚れすらあるのですが、どんな風に作ってくれても良いからと言って頂いたので、尚更即座に飛びついたのです。

しかし、洲浜台が幅3寸との事ですから、松竹梅のそれぞれを立木仕立てにしては、どれも雀が小さ過ぎてしまいます。

加えて、松の嶋台やらは作り飽きていますし、数年前同じ所に、竹の立木に2羽の雀という嶋台を、官女の小道具として納めてもいるのです。

代わり映えのしないものなど、作りたくも納めたくもないという以前に、何よりもこの嶋台の主役は松竹梅にあらず、体長3cmの雀に違いありません。

こんな依頼があったと、歌舞伎に関わっておられる方に話すと、『雀と言えば、伽羅先代萩を思い出す。』と、赤い鳥籠が舞台の上手に置かれた場面の画像を送ってくれたのです。

そこで考えついたのが、洲浜台の上に鳥籠を乗せ、その内と外に雀を置き、松竹梅の有職造花をほんの1枝ずつ鳥籠の上に置くというプランでした。

①籠の外を飛ぶ親雀と、籠の上にとまる小雀。
②籠の中に囚われた小雀に餌を運ぶ親雀。
③開け放たれた籠の入口にとまって、親鳥の待つ外に、まさに飛び立とうとする小雀

という3種なのですが、これは洒落ていると大いに小躍りした翌朝、ネットで探し得た、最も小さな竹製虫籠のサイズ見本を作ってみれば、どう見ても大き過ぎるのです。

たった一晩の糠喜びに終わりました。

随分と落胆したのでしたが、とにかくペアの雀が3組という設定は変わりませんから、先ずは6羽の雀を様々なポーズで作りました。

雀が出来上がった頃、タイミングを図ったように京都から新しい洲浜台が届いたのですが、意外にも随分厚手の野暮ったい代物にガッカリした次の瞬間、突然閃いたのです。

松竹梅の設定を、松→松葉、竹→竹林の落葉、梅→小さな古木に数輪の花、とするのです。

白木の洲浜台に、切り株を置いて松葉を散らしたり、切り抜いた笹を重ねるなどした上に、餌を運ぶ親雀などの2羽ずつを構成するのです。

私のインスピレーションは、ともすれば意表を突き過ぎて、理解を飛び越えてしまいがちですから、依頼者の満足が得られるかどうか冒険だったものの、その松竹梅表現は、意を得たものとばかりに喜ばれました。

さて、『伽羅先代萩』を教えて頂いた方から、尾形乾山の作という、藤原定家が詠んだ十二ヶ月の鳥と花による図案での、陶器の画像が送られて来たのです。

その図をカラーで見るのは初めてでしたが、勿論私が復元した十二ヶ月平薬と同じ題材ですから、乾山によるオリジナルの図案化には、作る側から見ると、幾つかに随分な苦労が見えるようで、微笑ましかったりしたのです。

しかし、それだからこそ、ならば私もオリジナルの十二ヶ月平薬を作ってみたいと、すっかり触発されてしまいました。

以来ずっと、頭の中で花鳥の図案が蠢き出しているのですが、これもまた、何かのヒントで突然転がり出たような図案でもなかったら、ちっとも面白くなど出来ないのではないかと、いささか悶々とし始めているのです。

6羽の雀

松葉

竹の落葉

梅

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