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■ 近頃のこと

2023/06/25

夏は来ぬ

突然思いついた、藤原定家花鳥の歌によるオリジナル十二ヶ月平薬制作の最初は、意図して季節に合わせたのではないのですが、卯の花とホトトギスになりました。

卯の花は、小中学校に続く道の山側に、時期ともなればそこここにビッシリと、ほんの僅かに象牙色を帯びた白い花をたわわに咲かせたものです。

青臭いような独特の香りは、随分遠くから匂ったように思い返されるのですが、その『卯の花』とは、どうやらヒメウツギのことだったようです。

『卯の花の匂う垣根にホトトギス早も来鳴きて』と童謡にあり、また小御所の襖絵にも、柴垣に卯の花の咲く光景が描かれていますから、そんな平薬にするつもりで柴垣を作り始めてみれば、卯の花の小さな一花と柴垣との大きさの対比が、どうもしっくりといかないのです。

縮尺に拘ったりすれば、原寸でも小さな花だと、それを縮小して作るなど無理になったりするのですが、そもそも有職造花様式とは、部分的なデフォルメを振りかざし、また駆使して、比率の問題を切り抜けるのが基本かと思います。

云わばその『切り抜け方』というのが、とりわけ平薬の構成ならではの面白さに繋がるものですから、比率の曖昧さを逆手にとって楽しんでしまえるのが、制作する者だけの役得なのかもしれません。

卯の花は『行の薬玉』にも使われますので、今までに何度も作ってはいるのですが、とにかく小さい上に花数がすこぶる多いので、厄介な部類の有職造花には違いありません。

さて、卯の花とホトトギスの平薬が初っ端になった要因には、木彫彩色のホトトギスをもう一度作ってみたかったということもありました。

参考にしている鳥類図鑑に描かれているホトトギスは、前に作った愛嬌のあるホトトギスとは大違いで、くちばしは鋭く尖り、いかにも托卵を平気でしてのけそうな面構えをしているのです。

その身勝手そうなふてぶてしさで、咲き乱れる卯の花に突進するような図案を思いついたものですから、ホトトギスの位置と角度には、神経質に工夫を凝らした上で、卯の花を植え付けていったのです。

いつもながら、主役を端に据えた構図だと、左右の重さのバランスに苦労するのですが、作り置いてあった花を全て使って小枝を仕立て、それを補ってやっと釣り合いが取れたのでした。

絵の出身の私などは、どうしても構成が絵画的な配置になりますから、片方を大きな空間にして、もう片方に花や枝を集めるというような構図を思い立ちがちで、時には蕾の中に小石を忍ばせたりして、左右の重心の辻褄合わせをしなければならなくなったりするのです。

そんなこんな、一応これくらいで完成かと思った段になって、薬玉を忘れていたことに気付きました。

遅かりし・・・と嘆くまでもなく、オリジナルの十二ヶ月平薬に薬玉はまるでそぐわないようですから、今後も薬玉は省くことに決めて、直ぐに2月の『桜と雉』の平薬制作に入ってしまいました。

以前、蕗の葉と組み合わせた平薬を作ろうと、華やかな高麗雉(コウライキジ)を木彫彩色しながら、どうにも様にならなかったのを、この際雉に改作して使ってしまおうとの横着な目論みで、2月の『桜と雉』に進んだだけなのです。

しかし、雉の彩色の厄介さたるや、木彫りどころの騒ぎではありませんから、どうせ上手くいかないだろうし、その時は桜に埋もれさせてしまおうと、またまたちゃっかり開き直っているのです。

平薬

白い鳥

彩色鳥

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