前に少し触れましたが、この木彫り彩色の雉は、新たに彫らならければと思うのと同時に、失敗作でお蔵入りしていた高麗雉(コウライキジ)を思い出し、それを改作したものなのです。
腕の力の衰えからでしょうけれど、木彫りで最も力の要る荒彫りが辛くなりましたので、高麗雉の改作ならば、荒彫りの工程を回避出来ると思い立ち、早速改作を始めたのでした。
写実に立ち返って、彩色の済んでいた胴体など随分と削り取ったばかりか、前を向いた首を切り離して、羽繕いに後ろを向いたポーズに貼り付けたりしながらも、アウトラインに出来る限り写実を留めるよう心掛けながら、大幅に改作したのです。
婚礼飾り『置き鳥置き鯉』の復元を初っ端に、雉の木彫彩色は、これまでに3、4回もしたでしょうか、その度に途方に暮れてしまっていました。
様々な写真や花鳥画を漁ったり、温泉旅館などで剥製が置かれていたりすると、直ぐに寄って観察していたのですが、自然の造形に同じものなどありませんし、絵もまた然り、多様さに翻弄されるばかりだったのです。
絵に描かれた雉が必ずしも参考にならないのは、見たい所、確認したいところが説明的に描かれているわけではなかったり、極めて細かく描かれた花鳥画をそのまま写しても、様式美の平薬にマッチするかはまた別の問題だからなのです。
有職造花に組み合わせる木彫彩色は、装飾的な様式に消化されている必要がありますから、雉のように見る角度ですら照り出される羽色が変わって見える鳥は厄介極まりなく、私には手に負えないままな のです。
ともかく仕上ったつもりで、大胆に使った太い幹に止まらせてから、幾分玩具じみてしまった雉を桜の小枝で埋もれさせるように、花咲かせていったのです。
実はこの桜には、雛飾りの桜橘を作って余った花を混ぜたものですから、桜の色が少し濃すぎるように感じはするのですが、十二ヶ月平薬という、より様式的な有職造花と、桜に雉という、あたかも絢爛な桃山の障屛画のような組合せの平薬ならばこそ、その方が相応しいのかもしれないとか思いながら、もう既に12月の『早梅に鴛鴦(オシドリ)』制作に向かっているのです。