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■ 近頃のこと

2023/07/29

何処にか鶴は飛び去る ─『10月 菊と鶴』を作る─

11月の平薬を仕上げ、次は10月をと思いながら、一向にプランがまとまらなかったのです。

明確なのは、丹頂鶴の頭の赤を際立たせる構成をというだけで、菊は白菊だけでとか考えはしたのですが、鶴のポーズや大きさなどに具体的なプランが立ちません。

数日を産みの苦しみでいる内、松の大樹の向こうに、何処にか飛び去る後姿の鶴が頭に浮かんで来たのでした。

その下に、平薬ならではの遠近法によって白菊を僅かに覗かせるという構成なのです。

日本画のつもりで、松と菊の葉の緑、鶴の羽と菊花の白と色彩を限定し、唯一の暖色である丹頂鶴の頭の赤を際立たせるのです。

鶴を飛ばせるため、輪の左上に大きな空間を作るのに、左下に枝を伸ばす松の大樹を右に据えてみれば、右側の重さが大した片寄りになってしまい、釣り合いを取る工夫に1日を費やしてしまいました。

結局、枝に隠して鉄の板を数枚も括り付けてやっと、ともかく左右のバランスが取れはしたのですが、空白を重要とする絵画的な構成は、どうしても極端な不均衡を生み出してしまうのです。

さて、昔の屏風絵にある鶴をはじめ、毛植えの鶴にも共通するのですが、飛ぶ鶴の尾羽が黒にされているのです。

しかし、鶴の黒い羽根は尾羽ではなく、翼の下方胴寄りの羽で、翼が畳まれるとそれが尾の方にまとめられるために、あたかも尾羽のように見えてしまったからでしょうか。

知ってか知らでか、恐らくそれと知りながら尾羽を黒いままにしたのは、その方が『絵になった』からではないかと推測したりもするのです。

勿論、私もそれに倣いました。

鶴の彩色には、こまかな羽の描写などはせずに、羽の重なる翼の部分に純金を薄く塗り重ねて、微かに金色に光る影としたのです。

五色紐が下がるため、丹頂鶴の頭の赤が際立ち見える事はありませんでしたけれど、随分と屏風絵風の平薬に出来上がりました。

それにしてもこの暑さと言ったら。仕事場は、連日34℃超えです。

冷房を使わない私の助っ人は、回り続けてくれる扇風機と数度の水風呂。そして何より、暑さを忘れる制作なものですから、次は何月の平薬に進もうか決まらずグルグルしている頭といったら、まるで熱中症の如くです。

鶴のアップ

平薬

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