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■ 近頃のこと

2023/07/22

網代木に千鳥飛ぶ

創作十二ヶ月平薬制作ですが、先ずこれを、次はこれで、その次はこれ・・・と作り進めば、出来上がるものは殆ど上半期のものなのです。

何故そうなのかは簡単なことで、下半期の平薬制作に二の足を踏むのは、木彫彩色しなければならない鳥の数というだけのことなのです。

ひと月毎に1羽ずつの上半期に比べ、7月カササギ3羽、8月雁5羽、9月ウズラ2羽、10月鶴3羽、11月千鳥5羽、12月鴛鴦2羽と、下半期では計20羽も作らなければなりません。

しかしそれは『懸物図鏡』の図案でのことですから、改めて考えるまでもなく、創作十二ヶ月平薬である以上、その踏襲など全く不要なのだということに、何と8ヶ月分も仕上げてから気付いたのです。

さて、6月の『撫子に鵜飼』を仕上げてから、幾人かの方に、次は何月の平薬を見たいだろうかと聞いてみたのですが、面白いことに11月『枇杷に千鳥』に集中したのです。

復元の十二ヶ月平薬では『枇杷に千鳥』が一番好きなのだとか、譲って欲しいとも言われた事があり、私も次を11月にするつもりでいたものですから、思い掛けない人気と図らずもの一致に驚かされたのでした。

千鳥を頭に描くなり夜の波間が浮かび、そういえば小御所の襖絵にそんな図があったと思い出したのです。

調べてみれば、下弦の月の下に川が流れ、網代木に水がうねり通る上を、何羽もの千鳥が飛び過ぎる襖絵で、直ぐに枇杷の花を加えた図案を思い付きました。

月が放つ白銀の光の中に、枇杷の葉も千鳥もその色を消されて溶け込む、そんな夜半の光景を思い付いたのです。

先ず網代木用の小枝を台座に植え込み、そこに水の流れに見立てた絹スガ糸を絡めながら右に流し、網代木の元に空いた隙間には、ほんの少しだけ水色に染めた真綿を差し入れたのです。

スガ糸も真綿も非常に扱いが厄介なのですが、毛羽立つ真綿や、きっちりと揃ってくれないスガ糸の乱れが、水しぶきに見えないこともありません。

白千鳥は、本来の羽色を夜闇に染め、白い羽だけを際立たせて、左から右に飛ぶ千鳥の残像を描くようなつもりで、5羽を配置したのです。

枇杷の花は、飾り物としての演出を施して咲かせ、平薬ならではの遠近法により、千鳥飛ぶ川とは距離を隔てた設定です。

出来上がって撮影してみれば、何度撮り直そうが何故か夜霧とか朝靄が掛かったように、薄ぼんやりとしか写らないのでした。

月だけ

枇杷の花

完成平薬

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