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■ 近頃のこと

2023/08/04

上弦の月に尾花茂れる

中学生の頃、一般が学ぶ書道の雑誌で、画仙紙の半切に1句だけを仮名書きした手本があり、それが『石も木もまなこに光る暑さかな』だったのです。

どんな字だったかなどとうに忘れてしまっていながら、俳句だけ覚えているのは、その句によくよく惹き付けられたからでしょうけれど、それが去来の句だとは今しがた知ったのです。

今年の7月の、焼け付くばかりの異常な猛暑の昼さ中、外に出るなり射られる、目の眩むような光こそ、『石も木も眼に光る』というものではなかったろうかと思い出したのでした。

忌々しい連日の酷暑の中で、先月は6つを仕上げた創作十二ヶ月平薬ですから、残りは7~9月分だけになりました。

いつまで経っても、まるで作り方を見い出せない女郎花が主役の上、数羽のカササギに七夕の橋を掛けさせなければならない、7月の『女郎花に鵲』。

平薬ならではの遠近法で、小さな萩の花と大きさの対比を克服しながら、どうしたら30cmの輪の中に何羽もの雁を渡らせられるものか、全く解決の及ばない、8月の『萩に雁』。

この2つの、残るべくして残った、途方に暮れるばかりの厄介な平薬に比べるまでもなく、9月の『尾花に鶉(ウズラ)』は、鶉の扱いに2晩だけ頭を痛めて突然ひらめけば、さっさと制作に掛かれて、早々に仕上がったのです。

しかし、尾花が詠まれた藤原定家長月の歌が、『花すすき草のたもとの露けさを捨てて暮れ行く秋のつれなさ』なのはともかく、鶉を詠んだ歌は、『人目さへいとど深草枯れぬとや冬待つ霜にうずら鳴くらん』というのです。

今年のように、新暦と旧暦に1ヶ月半も差があったにしろ、長月の歌に霜が歌われるというのは、いくら何でも季節に無理があるでしょう。

何れにせよ霜は、枇杷を詠んだ11月の歌にあるのですから、『暮れ行く秋のつれなさ』とはあるものの、季節を10月初め頃に設定して、ススキは未だ穂が出たばかりの薄紫に、葉も夜露に相応しい瑞々しい緑にして、その根元にウズラを置くことにしたのです。

11月の平薬に、純銀泥を塗って下弦の月とした、直径20cmの桐板残り半分に、今度は純金泥を塗り上弦の月として尾花の後に浮かべ、秋の演出を加えました。

満月に向かう月は、尾花繁れる野に皎々と照り、その根元の母鶉に2羽の雛鳥がまとわりつくのを、父の鶉が少し離れて見守っているのです。

ひらめきとは、ウズラを子連れにすることなのでした。

ススキ

ウズラ

平薬

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