続いた来客やら、日常の家事に制作の時間を取られ、気が付けば干した布団が早くも陰ってしまっているという日の短さ。
そんなこんなに、何だかやたらと焦ってばかりの毎日でいるうち、すっかり今年も押し詰まっていました。
来年の干支である、辰の木彫り彩色面を届ける約束にもかかわらず、いつまで経ってもデザインが閃かず、クリスマスを過ぎてしまってやっと取り掛かれたのでした。
焦りながらも手付かずにいたのは、来春の婚礼のため、銚子飾りと嶋台をとの依頼がこの月初めに入り、ただでさえ興味深い婚礼飾りの上、所蔵される銚子を送って頂いたところ、それが随分古い由緒あるものだったので、早速銚子飾り制作になだれ込んでしまったからでもありました。
制作の時は、例えば針金貼りとか、作業が単調であるほど、相変わらずYou tubeで、画面を見ていなくても構わないものを耳にしながら、それで退屈を紛らせながら、せっせと手を動かすのです。
BGMとして耳に流すYou tubeですが、何を聞くかも流行りのようなものがあって、オペラから始まって、ピアノ協奏曲、バイオリン協奏曲、三遊亭圓生の落語、読んだこともない山本周五郎、藤沢周平、山本一力といった大衆小説の朗読など、こうしてはっきりと名前をあげられるほど、同じ演目や曲、作家などを、時にはひと月以上にもわたって、嫌気がさすまでピンポイントで聞くのです。
『まんが日本昔話』も片っ端から、随分長い間耳だけで聞いていましたが、だからこそ視覚に惑わされずに色々気付かされ、考えさせられもしたのです。
昔話の多くは、枯れ木に花を咲かすだとか、タヌキが恩返しに来るとか、有り得ないことが基本でしょうけれど、本当に有り得ないのは、『昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。』ということなのでしょう。
例えば、山に柴刈に行くおじいさんと、川に洗濯に行くおばあさんの2人暮らしでは、先ず食生活が成り立ちませんし、『納税』が出来ません。
年寄りを用無しとして山に捨てるような時代に、お上が老人に対して善意の見逃しをするなど無いでしょうから、そもそも『おじいさんとおばあさんが2人で住んでいる』など、成り立たないのです。
そこで、何を置いても伴侶を決め、子をもうけさせ、それを堅実な後継ぎに据えなければ、自分達の老後は保障されないという訳です。
すると、家を絶やしてはご先祖に顔向けが出来ない、そのためにはどんな犠牲も厭わないなどと、もっともらしい物言いで、随分えげつない行為まで正当化したところで、とどのつまりは、自分達が『おじいさんとおばあさんが住んでいました』とならず、路頭に迷わないためにすることでしかないのです。
今の世に続く『家の存続』という必死の使命とやらなど、実はそうした保身の企みが代々正当化されての、洗脳や刷り込みの成果だろうと見えて来たりしたのです。
勿論、そんな受け取り方は、昔話を聞く上で所詮不粋というものですし、社会の嘘などを一々取り立てるほど馬鹿らしいことなどないということも、改めて知るのでした。
昔話には、自分が食べるものもないのに、僧とか旅人に食事を振る舞う話が多くありますが、一人暮らしの老婆の家に、旅の僧が一夜の宿を求めて立ち寄る話があります。
寒さに凍えた空腹の旅の僧をもてなそうにも、明日の食べ物すらない老婆なのですから、困り果てた挙句に庄屋の畑から大根を盗んで来て、それを茹でて振る舞います。
味付けしたくとも、味噌甕の縁に干からびた欠片すら無く、ただ茹でて馳走するのですが、旅の僧は美味しい美味しいと食べ尽くすのです。
前々から考えていたのですが、江戸の長屋暮らしでさえ、今日の米にも困る生活で、煮物に鰹節や昆布の出汁を使うなど有り得たはずもなく、調味料として酒を使うなども、以ての外だったでしょう。
ならばこそ素材の味しか無かったでしょうから、『これはよく出汁が出る』という言葉は、どれだけ日常の食事に調味料が不足していたのかを物語り、それ故山鳥や魚など論外に、ある種の茸や野菜やらから出る味に敏感な感嘆があり、それが自然への感謝に結び付きもしていたのではないかと気付かされるのです。
それにしても、大根を盗んでもてなした先程の老婆ですが、庄屋は大根が盗まれる度に足跡を追跡して、ひどく責め立てるのを承知してのことなのでした。
しかしその翌朝目覚めれば、一面の雪景色に足跡はすっかり消されていたというのです。
さりとて、それからの食物に解決が得られた訳もなく、雪の寒さに凍てつくしかなかっただけだったでしょうから、つくづく今の時代に生まれた幸運を噛み締めるのです。
さて、今年もあと数日。収入といったら、昨年の20分の1という懐の寒さですが、毎月提案される季節の有職造花をはじめ、創作十二ヶ月平薬や花雛、菖蒲兜の完成などの新たな挑戦に恵まれ、手元から生まれ出る有職造花の堪能が、とりわけ叶った1年でした。
有難う御座いました。
来年も宜しくお願い致します。