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■ 近頃のこと

2024/01/13

七草籠と筝弾く楽人

私の丸平雛コレクションである、尺三寸という大きな五人官女は、その数から5つの節句ならではのものを小道具に仕立てて持たせ、1人1人を五節句に見立てたのです。

1月7日人日の官女の前には、散々考えた挙句に、中島来章の描いた五節句図にヒントを得て、七草籠を置きました。

七草籠とは、髭籠(ひげかご)と呼ばれる、細い竹で大きな六角の目に編み、入れ口をバサバサのまま編み閉じしない籠のことで、主に関西の風習なのでしょうけれど、正月7日の朝に摘んで来た春の七草を入れるのです。

街を歩いていて偶然見つけた竹細工の店主に、中島来章の絵を見て貰うと、初めて見たらしいその籠に興味を持たれた様子で、はじめは小道具である大きさに難を示されていたのですが、小さな髭籠を制作して頂けたのでした。

昨年の上巳の節句前だったか、江戸琳派の絵に見る、雛頭の代わりに菜の花とレンゲを挿した、この上なく愛らしい『花雛』を作って欲しいとの依頼を皮切りに、端午の節句には、檜兜を有職造花で模した『菖蒲兜』。七夕は、『梶の葉に蹴鞠』。重陽には、『茱萸嚢』と、有職の知識に基づいた、興味惹かれる注文ばかりを寄せて頂くようになった方から、髭籠を誂えるので、それに入れる七草を作って貰えまいかとお話があり、即座にお引き受けしたのです。

送られて来た髭籠の底は直径7寸ほどでしたが、丁寧に作られた髭籠は端正に見事な出来でしたので、取り掛かっていた制作を終えるなり、直ぐに作り始めれば、野草はほぼ実物大になりました。

ネットで画像検索しながらの制作でしたが、中でもホトケノザと検索して現れた画像は、可憐なピンクの花を付ける、何とも愛らしい野草でした。

それが春の七草制作の最後でしたから、早速作って髭籠に入れれば、ピンクの花が緑のなかに殊更映えて、気持ちがホッコリとすらしたのです。

一応の完成画像を、ドヤ顔状態で依頼者に送ると、申し訳なさそうに気を遣われながら、春の七草のホトケノザは、黄色の花を咲かせるコオニタビラコという植物の方なのだと返信が入ったのです。

ホトケノザと呼ばれる野草は少なくとも2種類あり、私の作ったピンクの可憐な花の咲くホトケノザは、制作しながら、これを食べてしまうのだろうかと疑問が湧いた通りに、まるで別の草なのでした。

間違いの指摘に送られて来た画像の葉の形を見て、そういえば官女の小道具として作った七草には、確かにこれを作ったと思い出したのです。直ぐに作り直しました。

それもまた愛らしい野草に仕上がりましたけれど、ご依頼の方は間違った方のホトケノザも気に入られたようで、それも是非譲って欲しいと言われた時には、あたかも小さな命を救って貰えたような気持ちで、胸を撫で下ろしたのでした。

話は変わりますが、昨年の暮れに二番親王の組物である尺三寸楽人に、もう1人筝弾きの楽人が加わりました。

雛道具は、全くコレクションの対象外なのですが、数年前ヤフオクに出品されていた筝に、その優れた細工ばかりか、尺三寸楽人に適した大きさでもありましたから、すっかり魅了されてしまったのです。

競り合う相手もいないまま、気の毒なほどの安価で落札出来たのですが、その筝をどうしても無駄にしたくない気持ちが数年を重ねてはち切れ、とうとう丸平さんに制作をお願いしたのです。

頭は、恐らく明治時代に作られた物でしょうけれど、どんな人形に使うためだったのか珍しく肉色で、最初は尺三寸楽人の篳篥にしたのです。

しかし、どうにも消せない違和感から別の頭に替え、次は女性として髪をおすべらかしに結い直し、長柄銚子の官女になったのでしたが、それもしっくり来ずに別の雛頭に取り替えてから、しばらくお蔵入りしていたのです。

男の髪を結えば繊細な美男に、おすべらかしに結ったなら、はち切れんばかりの若く活発な美人になる見事な頭なのですが、不思議なことにどの胴にも馴染んではくれませんでした。

ともかく、再び男の髪に結い直し、烏帽子を被せて楽人に戻ったのでしたが、正座した筝弾きとなった姿といったら、気品から、表情から、丸平さんも感嘆したほど、今度ばかりは今にも動き出さんばかりに即座に馴染んで、とうとう終の居場所を得たのです。

これで、私の二番親王と尺3寸下物による大きな組物は、28人揃いとなりました。

さて、元旦が能登地震に始まるという不穏なの幕開けですが、いったいどんなに年になるのでしょう。

私も既に余生に入ったのでしょうから、より前向きで興味惹かれる制作に明け暮らせたらとばかり願っています。天災や社会情勢などに付け込まれてはいられないのです。

共に、生き抜いて参りましょう。

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