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■ 近頃のこと

2024/09/23

百日紅

およそ30年近くの間に、私は130種以上に及ぶ花を主に季節のオリジナル平薬の制作のため、有職造花として作ったのです。

桜や梅、また松のように、有職造花の定番である物ではまるでなく、季節ならではの植物による創作平薬には、ノウゼンカズラやガマの穂等など、かつて有職造花として作られた事などなかったろう素材が沢山あるのです。

そもそもが季節の触発によって生み出された平薬なのですから、多くはその時ただ1回きりしか作らなかったのですが、しかし試作というに留まらない、それでも思い残すことはなかった制作となっているのです。

花やらの形をどこまで省略して様式化を目指し、そのためにどんな鏝当てが相応しいかも突き止めるのは、そのまま技術の習得と有職造花の追求経験に繋げられたのでしたが、菖蒲の花弁や女郎花を筆頭に、随分と長く色々な試行錯誤を繰り返したものです。

カタクリの花とか、秋の七草の藤袴とか、そんな特殊な物ほど、結構再度作らなければならなくなったりしたもので、そうなるととにかく最初に作った物が、掛け替えのない参考になりました。

勿論、特殊なものほど無茶な依頼によって作った物でしたから、完成と同時に引き取られて殆どが手元にありませんので、残されている画像から、どうやって作っているかを推し量るしかなく、そんな時ほど寸法を残しておけばよかったと、何度も悔やんだものです。

そんなことを繰り返して30年になろうという今、有職造花にしてみたいと興味を惹かれる花など潰えてしまったに等しく、最早オリジナルの平薬を作ろうとする意欲まで、殆ど湧かなくなってしまっています。

しかし、そうでありながらも、それでも作らずに、または作れずにいるまま、ずっと悔いを残し続けている有職造花が2つだけあるのです。

百日紅と、雪の下のピラカンサです。

百日紅は、直径30㎝の輪の中に構成しなければならない、平薬という制約がある限り、それに見合う1花の大きさでは、技術的に無理なのです。

それでも百日紅を目にする度に、たとえ道にまで枝をはみ出させた知らぬ家の花であったろうと、手繰り寄せては、どうしたら有職造花になるかを考えて来ていたのでした。

それが近頃になって、無理なのは平薬制作を基本にしているからで、例えば花桶に活けるとか、原寸大が許される条件ならば、薄絹を使ってきっと出来るだろうとの確信を持ち始めているのです。

もう一つの雪を被ったピラカンサですが、この制作の厄介さは、言うまでもなく直径5㎜程の実にする素材と、少なく見積もっても1,000個以上必要な実のひと粒ひと粒を、くっつかせる事なく鮮やかな赤い実に塗り上げなければならない事なのです。

何れにせよ双方共に、殊更の根気強さが必要ですから、最近心身ともに健全な余生がおぼつかなくなって感じる自分だからこそ、取り掛かるには早いほうが良いに決まっているのだし、ここまで制作依頼のなくなった今ならこそ、きっと時機到来というものではないかと思ったりもするのです。

しかし、他人からなど言うまでもなく、自分が自分に強制することすら、もう人生に2度とするまいと辿り着いた私ですから、ならばどうにも作りたくてならなくなる時まで放っておけばよいだけの事と、今まで通りに他人事のようでいられる筈が、久方ぶりに気持ちのどこかが落ち着かないでいるのです。

長い間胸に抱え込んできたプランを今こそ実現する時が来たなどと奮い立つ...まるで安物のマンガのように運べば楽なのでしょうけれど、そのモヤモヤの要因といったら、恐らく昨日の昼間、裏道を歩いて手繰り寄せた百日紅の薄桃色の襞(ひだ)と、とりわけそれを繋いだ仄かな黄緑の瑞瑞しい茎が、どうしたわけか頭から離れないことにあるようです。

季節の触発に感性が反応しなくなったら、物作りの看板など早々に下ろさなければなりません。

見事に外れてばかりいるピンポイント天気予報によれば、これから漸く秋の気配になるのだとか。
兎にも角にも、先ずはもう一つ作り始めている茱萸嚢を完成させてからに致しましょう。

ピラカンサのアップ

雪景色

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